我が国の高等教育は、グローバル化という新たな事態に際し、国際的な水準を視野に入れつつ、その教育研究活動の質的向上が求められている。特に、これまでの高等教育機関において重視されてきた学問的な知識を対象とした教育活動だけでなく、知恵やスキル、ノウハウなど、実際の社会において活用し得る知識も包含した総合的な知(以下、「知」)を取り扱うことにより、グローバル社会において指導的な役割を果たす人材の育成が高等教育機関に求められている。
一方,グローバル化が進展すればするほど、「知」が持つローカルな意味合いが際立つ。これは、対面教育による教師から学習者への「知」の伝達や、学習者同士の議論を通じた「知」の創造が教育の基本であるとともに、求められる対面性が、学習者が実際に移動可能な範囲に限定されるという、物理的な制約条件に起因するためである。この意味において、高等教育機関は、ローカルな社会、つまり、地域社会における「知」の拠点であり、対面教育・対面学習を通じた「知」の醸造の場である。高等教育機関で生まれ出た新しい「知」が地域社会において活用され、地域社会における知恵が「知」に反映される。豊かになった「知」は再び高等教育機関での教育研究活動を通じてさらに醸造され、再度,地域社会に還流される。このように、「知」が高等教育機関と地域社会との間で還流され発展する、「知」のエンパワーメントスパイラル を構築できるかどうかは、高等教育機関における教育と社会における実践や実務が調和し、社会・経済の変化に対応した高度で多様な人材を育成できる教育活動を推進する上で重要である。
このような「知」のエンパワーメントスパイラルを構築するために現在求められているものが、「知」の蓄積・共有・流通が容易に行える共通の土台(プラットフォーム)である。特に、情報通信技術を活用した教材の作成及び学習が行えるeラーニングプラットフォームが必要とされているが、その期待に応えうる高等教育用eラーニングプラットフォームは日本にはまだない。
これに対し,情報通信技術の普及が日本よりも先行している北米の高等教育機関において最も広く使用されているeラーニングプラットフォームがカナダのブリティッシュコロンビア大学で開発されたWebCTである。WebCTは、平成14年 2月末現在、WebCTは81ヶ国の2,593の高等教育機関で使用され、北米の出版社の大手約50社から約1,000の教材が販売されている。このように、「知」の蓄積・共有・流通を行うeラーニングプラットフォームが北米を中心に普及しており,それに関連する高等教育支援産業が創出されはじめている。折しも,急速に進んでいる知識集約社会における生涯教育の充実や,国立大学の独立行政法人化,少子化に伴う大学全入時代の到来など,大学教育を取り巻く状況は大きく変化しつつある.我が国においても新しい時代の高等教育に求められるeラーニングプラットフォームの普及を図ることが急務である.
このようなビジョンの下,名古屋大学情報メディア教育センターでのWebCTの日本語化技術および知識を核とし,株式会社エミットジャパンが設立された.